山梨大学パワー半導体デバイス研究室

甲府市,  山梨県 
Japan
  • 小間番号3973

 我々はワイドバンドギャップ半導体材料であるSiCのパワーデバイスの研究開発に取り組んでいる。現在主流のSiC-MOSFETはSiO2/SiC界面において欠陥準位が多く存在し、ゲート閾値の変動やチャネル抵抗の増加などの問題がある。我々は、酸化膜を持たないデバイスとして、SiCの埋め込みゲート型静電誘導トランジスタ(Buried Gate Static Induction Transistor : BGSIT)の開発に従事している。SiC-BGSITは、チャネル層にストライプ状のp+ゲート領域が埋め込まれている構造となっており、接合型FET(JFET)に類似する機構で動作する。埋め込みゲート構造のため電極形成時のアライメントマージンが発生せず、サブミクロン微細チャネルが形成可能、チャネル部に絶縁膜界面ではなく、バルクそのものを利用しているため信頼性が高い。山梨大学は産総研との共同開発により、独自の製造技術および徹底したデバイス設計によりノーマリーオン型およびノーマリーオフ型両方のSiC-BGSITを開発し、700〜3300V級でSiC物性限界に近いの超低オン抵抗を得ることに成功している。短絡耐量試験によりSi-IGBTの2倍程度の短絡エネルギー密度も実証した。

 SiC-BGSITの課題は、ゲート-ソース間がpn接合であるため、ゲート閾値が低い。この問題を克服するために、カスコード接続方式を利用する。カスコード接続とは高耐圧ノーマリーオン型SiC-BGSITと電流制御用のSi-MOSFETを直列接続によりノーマリーオフの動作をさせることができる。

 カスコード接続の動作は、オン状態の動作時はSi-MOSFETのゲートにオン閾値電圧以上の電圧を印加するとSi-MOSFET、SiC-BGSITは共にオン状態であり、SiC-BGSITカスコード素子は導通する。一方、Si-MOSFETのゲートに電圧を印加しない状態ではSi-MOSFETはオフ状態となり、Si-MOSFETのドレイン-ソース間に電位差を生じさせる。この際、SiC-BGSITのゲート・ソース間には結果的に負電圧が印加され、この負電位がノーマリオン型SiC-BGSITのオフ閾値電圧を下回るように素子設計すればSiC-BGSITがオフ状態となり、電流を阻止するようになる。従って両デバイスともにオフ状態となり、SiC-BGSITカスコード素子全体としてノーマリーオフ動作をする。また、ゲート駆動はカスコード素子中のSi-MOSFETのゲートを駆動することになり、従来のパワーMOSFETやIGBTのゲートドライバーをそのまま使用することが可能である。さらにカスコードデバイス中のSi-MOSFET構造中に組み込まれているボディーダイオードが使用可能である為、これを利用した逆導通動作が可能である。従って外付けフリーホイールダイオード(FWD)が必要無く、チップ実装面積を低減できる。

 カスコード接続は、端子間の寄生インダクタ、寄生コンデンサの影響を受け、誤動作しやすいので、当研究室では、そのメカニズムと設計指針を明らかにするとともに、より高耐圧の実現のため、SiC-BGSITの多重接続の検討にも取り組んでいる。

 このように、SiC-BGSIT素子ファミリーは超低損失および高信頼性の性能により、その応用とはインバータや電源回路などの電力変換器への応用が期待される。

 一方、当研究室では、パルスパワー用のスイッチングデバイスとしての静電誘導型サイリスタ(Static Induction Thyristor : SIThy)の研究開発にも取り組んでいる。パルスパワー分野への応用展開も可能である。パルスパワーとは、時間的に高度に圧縮されたエネルギーのことであり、核融合や電子加速器などの科学基盤技術だけでなく、レーザーやプラズマの生成、燃焼機器や医療への応用などの産業分野にも利用されている。SIThyは埋め込み型の高濃度p型ゲート層を有しており、ゲート間のチャネルの電位障壁の高さを制御することでデバイスのオンオフを切り替える。オフ時にはチャネル部の中央に電位障壁を生じさせることでピンチオフし電流の流れを阻止するため、SIThyは材料がシリコンでありながら、低損失であり、高いdv/dt特性を有するパワー半導体デバイスである。そのため、急激な電圧や電流の変化が生じるパルスパワー装置などには、最適であると考えられる。我々は、SIThyの更なる高性能化を実現するためのデバイス設計に取り組んでいる。