横浜国立大学 大竹研究室

横浜市,  神奈川県 
Japan
http://ohtake-lab.org/
  • 小間番号1138

レアメタルフリー高効率モータの実現に向けた低磁歪鉄基合金磁気コア材料の開発

地球環境保全のために、自動車をはじめとするモビリティの電動化が進められています。モビリティでは、蓄積・使用できるエネルギー量が限られるため、これまで以上にモータの高効率化が要求されます。更に、資源問題を背景に、希土類永久磁石を使用しないモータが求められており、近年、永久磁石を必要としないリラクタンス・モータの利用が検討されています。モータにおいて、磁気コアは、電気と磁気のエネルギー変換を行う役割を担っており、軟磁性材料から構成されています。しかし、現在、材料には、透磁率が中程度(1,000程度)の鉄-シリコン合金が使用されています(通常、この材料の薄板は珪素鋼板(≒電磁鋼板)と呼ばれています)。

高効率化のためには、①高透磁率、②高飽和磁束密度、③低磁歪の3つの磁気特性を同時に満足する新材料を開発することが鍵となります。鉄ホウ素合金や鉄アルミニウム合金は、鉄シリコン合金に比べて透磁率が3~15倍程度高く(3,000以上)、飽和磁束密度も実用レベル(1.3テスラ以上)であるため、潜在的に優れた電磁エネルギー変換能力を有しています。しかし、ホウ素やアルミニウムの価電子が鉄の電子状態に影響を及ぼすことにより誘起される大きな磁歪(じわい)が磁気コアへ適用する際の障害になっています。これまで、金属学的にマクロ組織を制御することによりアモルファスの鉄ホウ素合金の磁歪を低減させる試みが行われ、実用化もされています。しかし、作製可能な材料寸法が小さくなるという新たな問題を引き起こしています。また、量産性に優れる圧延やスタンピングによる打ち抜き加工が容易な結晶材料は開発されていません。

そこで、本研究室では、従来の組織制御とは異なる新たな原子レベル構造制御に基づく磁歪低減手法を提案します。具体的には、ホウ素やアルミニウムと価電子結合する軽元素(窒素Nなど)を結晶の鉄アルミニウム合金やアモルファスの鉄ホウ素合金に添加し、結合状態を制御することにより、磁歪増大を抑制させます。この手法は、圧延後の鉄アルミニウム合金の薄板や寸法が大きな鉄ホウ素合金の薄帯に適用できるため、材料特性だけでなく、実用性や生産性の観点からも優れており、上記問題の解決に繋がると考えています。

本研究開発は、現在、基礎検討の段階で、膜試料ではありますが、本手法の有効性を確認することが出来ています。バルク材料では、探索可能な組成領域が限られ、また、結晶方位に依存する特性を調べることが可能な単結晶試料を作製することも容易ではありません。そこで、本研究室では、まず、物理的気相エピタキシャル膜成長法を活用しました。この材料形成法は、熱的非平衡プロセスであるため、バルク状態の限界を超えて軽元素を固溶させることが可能で、低磁歪化のための組成や結合状態を明確にすることが出来ます。更に、この成長法では単結晶膜を形成できるため、磁歪を含む磁気特性の結晶方位依存性を明らかにすることが出来ます。この基礎検討の結果を受けて、今後、製品となるバルクの鉄アルミニウム合金の圧延薄板や鉄ホウ素合金の薄帯に対して、この低磁歪化技術を適用し、そして、モータの試作に展開して行くことになります。

ブースでは、モータの基礎からご紹介しますので、ご専門でない方もぜひお気軽にお立ち寄り下さい。