金属有機構造体(metal-organic framework; MOF)は、金属イオンと有機配位子からなる次世代多孔性材料である。活性炭やゼオライトなどの公知の材料と比べ、MOFは分子レベルまで組成や構造を自在に設計できる「デザイン性」を特徴とする。例えば、MOFを形成する金属イオン及び有機配位子との組み合わせを適宜選択することで、細孔径や細孔分布、比表面積、特定のガスとの相互作用が調節できる。
その多孔性とデザイン性を活かした応用は多岐にわたっており、従来の多孔性材料の用途であるガスの貯蔵や分離だけでなく高分子合成や触媒・イオン輸送など幅広い用途での応用が期待されている.
MOFは半導体材料としても広く研究されており、MOF特有のナノスケールでの構造制御によって、パターニングをより微細化できる可能性を秘めている。また、MOFの多孔性やデザイン性を十分に活かした例として、細孔内のゲスト分子を変化させて導電性を制御したMOFや、細孔内に異なる価数を持つ金属をドープすることで導電性を変化させたMOFなどが挙げられ、導電率を広域で変化させる技術が報告されている。
半導体業界におけるその他の応用例として、半導体製造用の有害ドーパントガスを常圧未満でMOF中に効率よく貯蔵し、安全に運搬するためのガス貯蔵技術も実用化に向けて活発に研究されている。弊社においてもMOFのガス貯蔵特性を基盤とした次世代ガスボンベ「Cubitan」の開発を進めている。Cubitan内に目的ガスに適したMOFを充填し、ガスを吸着させることで、ボンベの小型化を達成し、配送や設置などをより円滑に進めることができる。また、CubitanにはIoT機能も搭載されており, 使用状況に応じたガスの手配など様々な面で半導体製造工程におけるソリューションを提案できる。
その他、製造工程から排出される排ガスの選択的な分離・除去やセンシングにもMOFを活用することができ、CO₂やNOx・SOxなどの環境負荷の高いガスを分離することも可能である。MOFは様々な課題を解決できる潜在能力を秘めており、普及に向けた研究・開発が世界中で進められている。