IoT社会を促進させる新たな環境適合型振動発電デバイス
半導体技術に支えられ、センサを含む回路の低消費電力化が進み、微弱な光や振動などのエネルギーを回収し発電を行うエネルギー・ハーベスティング・デバイス(環境適合型発電デバイス)の活用可能性が広がりつつあります。センサ、無線モジュール、そして、その自立型電源となる発電デバイスを組み合わせたものは、電源からの配線や電池の定期交換が不要なワイヤレスかつメンテナンスフリーなIoT社会を支えるコア技術となります。本年度のセミコンジャパンでは、当研究室が開発した、新たな振動発電デバイスを発表します(特願2022-086851)。
振動発電には、電磁誘導型に加え、圧電型や静電誘導型がありますが、電磁誘導型は内部抵抗が小さく、高出力化が可能で、また、耐久性が高く、動作可能温度域が広いという特徴があります。そして、電磁誘導型の中でも、従来、永久磁石搖動式や磁歪式がありますが、本発明方式(垂直磁界アシスト式)は、
・更なる高出力化を実現でき(従来の4~5倍で、消しゴムサイズで数百mWを実現)、
・加えて、使用できる磁性材料の選択幅も広く(特殊材料は不要で、ただの鉄でも可)、
その結果、低コスト化も図れるといった優位性を持ち、実用性に優れています。
現在、センサの種類や用途は多岐にわたっており、発電デバイスにも多様性が求められています。機械や人の動作、モビリティ、自然現象などにより力や振動がセンサ近傍で発生する場合、昼夜を問わず取り出すことができ、エネルギー密度が高い振動エネルギーの活用が有効となります(振動:mW/cm2 オーダー,室内光:μW/cm2 オーダー)。しかしながら、振動発電では、割れやすいセラミックを使う圧電型は耐久性が担保できず、また、有力視されている電磁誘導型の中の磁歪式は特殊な単結晶の板材料が必要であることからコストの面で課題がありました。
そこで、本研究では、振動発電の新たな原理(垂直磁界アシスト式,特願2022-086851)を開発し、上記問題(耐久性、コスト)を解決するだけでなく、更なる高出力化を実現することに成功しました(従来の磁歪式の4~5倍で、消しゴムサイズで数百mWを実現)。本デバイスは、脆性材料が不要で、摺動部もないため耐久性が高く、多結晶の軟磁性材料の板(ただの鉄板でも可)・コイル・磁石のみから構成されるため、低コスト化が可能です。そして、従来の磁歪式では、材料が潜在的に持つ磁束密度の一部しか(1 T程度)活用できていませんでしたが、本研究の垂直磁界アシスト式では、最大の磁束密度(4~5 T)を取り出すことが出来るため、振動発電の更なる高出力化を可能にしました。
本発明デバイスの基本構造は構築済みであるため、産学連携の実施により5年以内の実用化を目指します。実装先により活用できる振動や求められる電力量が異なるため、今後は、目的に合わせてデバイスの各要素(軟磁性材料の板寸法、コイルの線径と巻数、磁石強度)を最適化していくとともに、振動発電デバイスの出力は値が変動する交流電力であるため、キャパシタやバッテリーと組み合わせた電源回路を構築していくことが必要になります。
振動発電デバイスを搭載したワイヤレスセンサの適用可能範囲は多種多様であり、普及による産業的および社会的波及効果は大きいものとなります。例えば、工場では、微小振動を伴う様々な機器や装置が稼動しています。このような機材に振動発電デバイス、センサ、無線モジュールを組み合わせた IoT 機器を取り付ければ、振動や温度などの計測を通じて、機材のオンライン監視が可能になります。他にも、
・電気機器の押しボタン式スイッチのワイヤレス化やリモコンの電池フリー化
・走行により振動が発生する自動車などのモビリティ用センサの配線もしくは電池フリー化
・不審者によるドア開閉や窓破り検知による建物の防犯
・トンネル内壁や橋、ビルなどの構造物の異常応力検知による事故防止
・大雨や地震などに伴う土砂の微小移動検知による災害発生の予兆通知
・養殖漁業における波力駆動型振動発電とセンサを活用した生育環境や育成状況の自動監視
などが可能になります。
本技術は、経済産業省が所管する独立行政法人NEDOの研究助成のもと大学単独で発明したもので、2022年5月に特許出願を行い、今回のセミコンジャパンなどを通じて、現在、産学連携の可能性を模索し始めたところです。そのため、現時点では、連携している範囲、実装している範囲に該当するものはございません。今後の展開としては、半導体、自動車、機械、化学などの分野の企業様との連携により多方面の分野での実用化を目指し、半導体産業の活性化に貢献したいと考えております。